小津330年のあゆみ

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目次

第一章

第二章
005・松阪の小津清左衛門
005a・紀州藩と小津清左衛門
006・小津清左衛門、歴代
006a・掟書のこと
007・商人と御用金
008・小津清左衛門の信仰と施行
008・小津清左衛門の日常

第三章

第四章

第五章

第六章

小津和紙

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小津330年のあゆみ

昭和58年11月発行

編纂:
小津三百三十年史編纂委員会

発行:
株式会社小津商店

企画・制作:
凸版印刷(株)年史センター

印刷:
凸版印刷株式会社


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商人と御用金
 商人が藩や幕府へ臨時の上納金を差し出したり、御用金の指図を受けてそれに従うのは、富を積んだからには義務でもあり、藩の御用にそれなりの協力ができることは名誉なことであった。 だが、巨額の御用金を命ぜられることが続くと、負担がきびしすぎ、猶予を願い出ることも起こる。 小津清左衛門もしばしば紀州藩に御用金を上納し、後には幕府からも江戸店へ御用金の命があり、紀州藩に加えて幕府への上納金も増えていく。

 紀州藩への御用金は紀州藩御為替御用、紀州藩江戸表御為替御用の仲間とともに申し付けられており、幕府の御用金は江戸大伝馬町の富商として長谷川次郎兵衛の江戸店などと一緒に仰せ付けを受けている。 御用金の記録は小津の文書に残されているもののほかに、長谷川家の記録『江戸商業と伊勢店』のなかにも小津が上納した御用金のことがたびたび出てきている。 また、三井の記録のなかにも小津が御用金を上納した記事や、御用金を仰せ付けられて困惑する松阪商人の有様が記されているが、松阪商人が紀州藩へ納めた御用金の額は、どの店の場合でも千両か千両以上であったから、きついことであった。 小津の文書や他家の記録に拠りつつ、その一端を記しておきたい。

 紀州藩へは前から御用を勤めていたが、はっきりと記録されているのは宝暦四年(一七五四)の御用金上納のことであって、紀州藩からその功を嘉(よみ)されている。 翌年、松阪御為替組、翌々年は江戸表の御為替組が他の松阪の富商とともに御用を命ぜられ、その都度上納している。

 御用金は一応は貸上金であり、本来は返却される性質のもので利息も支払われるが、返してもらえるときもあれば、永久上納(永上金)になった場合もあった。 反面、紀州藩から御為替組の運用資金として、三千両が仲間に利息なしで貸し下げられるということも行われている。

 長谷川家の記録には寛政三年(一七九一)に小津が殿村家と共同で二万五千両上納したことや、寛政四年には小津から二千両、長谷川から一千両を貸し上げたことが記されており、天明六年(一七八六)や天明七年(一七八七)に多額の上納が行われ、しばしばのことに商人仲間の嘆きが深まったという。 小津の記録を中心に御用金の一部を記すと、

覚 請取証文
『覚』(御用金請取証文)文化十年(一八一三)(小津史料館展示)

 文化三年(一八〇六) 幕府へ 一千五百両(樽与左衛門請取)
 文化四年(一八〇七) 幕府へ 一千両(樽与左衛門請取)
 文化十年(一八一三) 幕府へ 八百両(備後番所請取)
                八百両(肥前番所請取)
 嘉永七年(一八五四) 幕府へ 三千三百両(内、一千五百両 播磨番所請取)
                一千両(大橋太郎次郎)
 安政二年(一八五五) 幕府へ 一千八百両(播磨番所請取)
            安政大地震救恤 二百八十六両
 文久元年(一八六一) 幕府へ 御本丸炎上に付御謝恩 三百両(因幡番所請取)
 文久二年(一八六二) 幕府へ 御本丸御不普請  三百両
                一百両(大橋太郎次郎)
 文久三年(一八六三) 紀州藩へ 大和国五条駅暴動の際
 慶応二年(一八六六) 幕府へ 御進発に付御用金 一万五千両(播磨番所、駿河番所請取)

などがあり、このほかに巨額な御用金がしばしば松阪御為替組の仲間からも上納されており、冥加金としては十組仲間から幕府へ上納されるのなど、御用金をめぐる挿話は多く、為替業務不振と御用金負担に耐えかねた店もあった。 小津は長谷川家とともに御用金負担に耐えた店であるが、御用を勤めることは容易なことではなかった。 御用金の仰せ付けは江戸末期になるほど激しくなり、明治維新へとつながっていく。

 大伝馬町の町名主馬込勘解由家の文書には、嘉永六年(一八五三)に小津清左衛門から馬込勘解由がニ千両を十三年割賦年三分の利息で借りていることが記されている。 こうした例は他にも多かったであろう。 江戸時代の小津の長い歴史のなかには、商人なればこそ、まして富商なればこその公儀やそれにつながるもろもろの出費が数多かったのである。

千両箱
千両箱(小津史料館展示)
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